通貨安競争はグローバリズムでは必然
通貨安競争はグローバリズムでは必然
モスクワで主要20ヶ国財務相・中央銀行総裁会議(G20)が開かれており、その中で日本の経済政策「アベノミクス」 が話題となった。安倍総裁就任を機に急激な円安となり、それが、大幅な金融緩和による「事実上の通貨安誘導政策」だと ドイツ財務相などが批判していたからである。 こうした大幅な金融緩和策は08年9月のリーマン・ショック以降、アメリカやEUは既に採っており、米FRBは12年末で 総資産を3倍に膨らませるほど、米国債などを買い増している。その意味で安倍政権はそれにならっただけのものであるが、 実をいうと、変動相場制の下でグローバリズムを進めると、どの先進国も同じようなデフレ状況に陥り、互いに通貨安競争を することになる。この説明のためにはデフレの分析が必要で、その原因は大きく分けて5つある。 第1が「通貨不足型のデフレ」。これは物の取引に対し、通貨が不足している場合に起きるデフレである。対策としては日銀の 金融緩和が唯一有効で、古典的なタイプのデフレである。 第2に「需要不足型のデフレ」。これは供給は充分にあるが、需要が不足するために物価が下がり、デフレになるタイプである。 これも古典的で、財政出動や金融緩和による貸し出し促進が有効な策となる。 第3に「規制緩和型のデフレ」。ネット販売の普及もこれに含まれるが、規制が緩和されると新規参入者が増え、過当競争となって 値段が下がり、デフレとなる。 第4に「円高デフレ」。現実として円は85年の1ドル240円台から急激に円高となり、輸入物価が下落してデフレが続いた。 その間、どれほど財政出動をしても金融緩和をしてもデフレは止まず、「失われた20年」と言われたが、その原因の相当部分は、 これであった。 第5に「100円ショップ・デフレ」。これはグローバリズムの進展で、大企業が日本で消費されるモノを中国やインド、 ベトナムなどの低賃金国でつくる。結果として先進国では物価が下がり、ワーキング・プアや失業者が増える。 「失われた20年」の残りの半分の原因は、これであった。 以上の中で、100円ショップ・デフレは、変動相場制の下、グローバリズムを進めると、どの先進国でも陥いるデフレである。 それを日本は先行して体験してきたわけである。 特に日本の企業は競争力があったため、どれほど円高になっても貿易黒字は止まなかった。最近になって、やっと貿易赤字の傾向が 定着してきたが、その原因は、この間の貿易黒字の累積で海外資産260兆円から生ずる年間15兆円ほどの配当収入である。 その分、絶対的に経常収支が黒字となるので、それに見合う貿易赤字とならないと、経常収支が均衡しないのである。 多国籍企業にとっては低賃金国でつくり、先進国で売ることで利益を最大にできるので、グローバリズムを進めれば、 どの先進国でも100円ショップ・デフレが発生する。そのデフレの解決のために政府が金融緩和と財政出動をするというのも、 他に策が思いつかない中では当然で、日本はこの20年近く、デフレの解決策として財政出動し、国の借金を積み増してきた。 以上を鑑みても、アベノミクスは「失われた20年」のデフレの分析がしっかりできていない。今はタイミングよく貿易赤字が重なって 円安に振れているため、大企業の業績が回復している。しかし、消費者物価2%増を達成しても物価は上がったが賃金は上がらない、 あるいは低賃金国との価格競争で消費者物価はさほど上がらず、土地と株価だけが上昇するというバブルの再来の危険性が大きい。 バブルとなれば銀行借り入れで民間は借金を増やすが、いずれ破裂して「不良債権の山」が残る。それをハゲタカが買い漁って 暴利を得るという同じ過ちを繰り返す危険性が高いのである。 また、10年間で200兆円の国土強靭化法も問題である。この20年間の例を見ても、波及効果はほとんど見込めないから、 自然環境を破壊して借金を増やすだけのものとなる。 さらに問題なのは、通貨安競争が横行し、世界的にインフレとなることである。 変動相場制の下、グローバリズムを進めると、100円ショップ・デフレが先進国に蔓延する。そのデフレを解決するために 金融緩和と財政出動を繰り返す。その金融緩和が「自国の通貨安」をもたらすが、あくまで「国内のデフレ解決」を旗印にするから、 批判はできない。どの国も「国内のデフレ解決」をうたって金融緩和し、それが通貨安競争をもたらすので、止めようがないのである。 この解決のためには変動相場制の見直しまで踏み込まなければならないが、残念ながら与野党ともに、そこまでの認識を持った 人物もブレーンもいない。したがって、真のデフレ解決、雇用対策、財政再建のためには、アベノミクスでもダメだったという 共通認識ができるまで、解決は先送りとなる。 ※ご意見をお聞かせ下さい。必ず本人が目を通しますが、返答は答えに窮するものもあり、省略させていただきます。下記へどうぞ e-mail: y-sano@sage.ocn.ne.jp ※このメルマガの申込や停止をしたい方は、下記にて「登録の解除または申込」をお願いします。 http://ameblo.jp/ohdoh/