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【出たっきり邦人 欧州編】1192 ギリシャ

【出たっきり邦人 欧州編】1192 ギリシャ

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■□■□■   出たっきり邦人・欧州編・2013・06・21・1192 ■□■□■
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              ◇◆甲編◇◆

         
            〓ギリシャ・スパルタ発〓
            
                 「田舎生活αβ(アルファ ヴィータ)

              第九十一回

              義母を偲ぶ


ギリシャ国営放送の送信がストップしてから何日も経ちます。一時は民放局さえ受信で
きなくなりました。独裁政権時か、と思わせるような事態です。
テレビを見ないわたしには、さほど支障はないのですが、大鉈を振るう政府に対して憮
然としています。
テレビのニュースと、トルコの連続ドラマを観ることが唯一楽しみだった義母なら、
きっと憤慨していたことでしょう。


五月五日の復活祭を迎えた翌々日、義母が亡くなりました。享年八十三歳。
お連れしたアテネの病院で、最期は意識もなく、ろうそくの火が消えていくようにして
亡くなりました。

遠く離れて住むわたし達は、頻繁に義母と会うことはありませんでしたが、毎日電話を
欠かさず、お天気に始まり、毎日の出来事や毎日の献立まで報告し合っていました。

愚痴の多い性格ではありましたが、曲がったことの嫌いな誠実な人柄でしたので、近く
に住む義妹を始め、近所のひとたちからも慕われており、亡くなる数週間前から、主人
も週末ごとに実家に帰っておりました。

様子が急変したのは、復活祭の前日でした。慌てて実家に赴くと、呼吸が苦しそうです
し、痛みもあるそうです。このような状態で、病院に行かない事が不思議ではあったの
ですが、財政破綻後のギリシャに於ける医療体制は目も当てられない状態とのことです
ので、肉親たちが億する気持ちも判るのですが、義母の意志もあり、救急病院にお連れ
しました。

普段ですとごった返す救急病院ですが、復活祭の前日であるせいか、静寂に包まれてい
ました。義母は、てきぱきと検査をして下さる看護婦さん達に従い、一瞬力強い様子を
見せました。入院が決まり、手続きを終えて、わたしと娘はスパルタに戻りました。我
が家を留守にすることが出来なかったのです。

主人と一緒になって初めて、離れ離れの復活祭を迎えて、病院で看護する主人と義妹の
孤独を思い、寂しくなりました。お医者さまの診断によりますと、肝臓、腎臓機能が低
下し、血液内の数値異常で輸血が必要となり、余命は短い、とのことを告知されたそう
です。

翌々日、日の出にはまだ間がありましたが、アテネに向かいました。気が逸るせいもあ
りましたが、休暇中で行き交う車も少なく、思いの外早く病院に着きました。義妹のご
主人が来てくれていました。そして義母とわたし達共通の友人、娘にアコーディオンを
下さった老婦人もお見舞いに来てくださっていました。そんな中、義母は酸素吸入をし
て、モルヒネの投与で意識もなく、穏やかな表情で横たわっていました。
医師によりますと、もうそう永くはない、とのことです。
わたし達には、ただ静かに手を握って見守ってあげることしか出来ませんでした。


復活祭の時期と重なり、順送りになったお葬式は、亡くなった日から三日後の金曜日で
した。またわたしと娘はスパルタから出向いたのですが、時間割で執り行われる、お葬
式の雑然さに無常を覚りました。

日本の四十九日のような法要が、こちらでは四十日、と呼ばれています。故人を偲び、
日曜日に行われるミサの後で行われます。義母の法要は、地域で有名な聖バルバラ教会
で執り行われました。これまで幾度となく経験した法要でしたが、普段では退屈なミサ
も法要も、とても心に残るものでした。まだ若い司教さま達がとても熱心だったのです。
法要の後、お話する機会に恵まれたのですが、セルビア人だそうです。話は尽きず、
日本に関する話題にまで広がっていきました。この、十二世紀ビザンチン時代の壁画を
残す素晴らしい教会で、義母の冥福を祈りました。

今でも義母のことを想い出します。主人や娘、時には遠くに住む息子とも、義母と共に
喜び、分かち合った一時を記憶の底から呼び覚ますことしばしばです。

思えば、義母は、血の繋がらない息子を、実の孫と分け隔てなく大切にしてくれました。
結婚してからは、わたしは遠くからお嫁に来たのだから、主人がわたしに悲しい思いを
させたら許さない。と言ってくれていました。

義母は、ギリシャ人女性らしく誇り高く信心深い、子供思いの肝っ玉母さん、だった。
ギリシャ人に欠けている、モラルがあって不正を許さない真っ当な人だった。

人生で大切なことを、真摯な心持ちで先人の哲学や諺を引用する義母から、早くに亡く
した実母よりも多くを学んだように思います。

今思うことは、お義母さんと家族になれて良かった、と。
そんな言葉をかけてあげられなかったことを悔やみつつ、筆をおくことにします。


キドーニ



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◇◆次回は6月25日(火)イギリス・ケント州から配信予定です◇◆
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