行政・政治・地域情報ニュース

行政・政治・地域情報ニュースのメルマガをWEBでご覧になれます。情報収集にどうぞ。

■Weekly Mail Journal■2013/5/29 No.686

■Weekly Mail Journal■2013/5/29 No.686

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
  2013/5/27   No.686   週刊メールジャーナル   読者数9584(前回)
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

【お断り】

すでに「予告」をさせていただいているとおり、本誌は次号・6月5日付第687号
を以って終刊といたしますが、多くの記事を転載させて頂いた『現代産業情報』
主幹・石原俊介氏が、逝去間際まで発行にこだわり、執筆していた草稿をもと
に、ジャーナリスト伊藤敏博氏がアンカーとして仕上げ、同誌4月15日付最終号
に掲載された記事を、最後まで本誌に転載させていただきます。

●“司法改悪”の正当化を許すな 制度見直しの世論を高めよ!
(会員制情報誌『現代産業情報』4月15日付最終号より転載)

弊誌が一貫して訴えてきた、この国の問題の一つは「司法」の在り様である。

裁判員裁判の導入と検察審査会の権限強化、すなわち強制起訴制度の導入が、
世界に誇るべき、我が国の精密司法に「感情」を持ち込ませることになると警
鐘を鳴らし続けてきた。

それでも司法改革は実施され、弊誌の警鐘通り、「感情司法」が法曹論理の中
を大手を振ってのし歩くようになっている。

強制起訴制度は本当に酷い。

すでに1審判決が出された4件のうち3件は無罪。小沢一郎・元民主党代表の陸山
会事件は既に2審判決も出され、無罪が確定した。

兵庫県明石市の歩道橋事故で業務上過失致死傷罪に問われた元副署長に至って
は「免訴=裁判打ち切り」、すなわち事実上の門前払い判決である。

1件は有罪判決が出された。

徳島県の町長がフィリピン人ホステスの顔を殴ったか否かが争われた事件で、
結果は有罪でも、罰金刑にすらならない科料である。

そもそもが、強制起訴というコストをかけてまで調べるべき事案であっただろ
うか。

しかも判決後に、目撃者が「実は殴ったところを見ていないのに目撃したと嘘
の証言をした。ホステスに頼まれて」と告白をする始末で、有罪そのものが上
訴審で見直される公算となっている。

くだらない、一言に尽きる。

無罪が確定した小沢氏のケースで露見したように、検察が起訴できないものを
市民が「別の観点」から強制起訴する際、検察が虚偽の証拠を提示したら一体
どうなるか。

検察が「不起訴」で自分の身は守りながら、検審を使って強制起訴すべく虚偽
証拠を投げる――。

小沢氏のケースは、弊誌が制度導入前に危惧していたことが現実化したもので
あった。

虚偽証拠を捏造した検事は処分されたが、再発を防止すべき対策=検審を“悪
意”から守る政策は、驚くことにいまだとられていないのである。

正直、あり得ない。最高裁、法務省は何をしているのか。

それでなくとも強制起訴の問題点は多い。無罪確定した被告は通常裁判であれ
ば、国賠訴訟を起こして賠償を請求可能だ。

しかし検審による強制起訴の場合、無罪被告が賠償を求めようと考えたら誰を
相手に訴訟を起こせばいいのか不明だ。

とどのつまり、これは「検審の強制起訴が誤っていた場合、誰が責任を負うの
か」という規定に行きつく。

責任体制がまったく不備のまま、裏を返せば被告の被害補償の裏付けがないま
ま強制起訴はスタートし、3年を超えた今も見直しがなされようとしないのであ
る。

異常を超えて、法務当局の怠慢を疑うべきだ。

裁判員をめぐっては、福島地裁郡山支部の裁判で裁判員を務めた女性が、公判
後に「ストレス障害」と診断されるという問題が発生した。

素人の女性に殺害遺体や現場の写真を見させることがどれだけ負担になってい
るか、法務・裁判当局は自覚できないでいる。

裁判員制度導入当時、検事総長は財界トップを訪ねて制度への協力を求めた。
その法曹界は、裁判員を務める国民の痛みを補償すべき制度を早く導入すべき
だ。

海外に輸出すら考えていいほど精密・良質だった我が国の刑事司法制度は、
「改悪」によって劣化がすさまじい状態になっている。

司法がこのような時期に、休刊するのは弊誌としても慙愧に堪えない思いであ
る。弊誌は、一刻も早い制度見直しを訴える。

そして国民に、裁判員・強制起訴制度見直しの機運を高める世論を盛り上げて
ほしいと希望する。


●「銀行支店長。走る」で江上剛氏が見せる職人芸と枯れないチャレンジ精神
(転載同前)

「元銀行員」という肩書が不要なほど、企業小説だけでなく、意欲的に小説の
ジャンルを広げ、ノンフィクション、ビジネス評論からエッセイに至るまで、
幅広く活躍している江上剛氏の最新作は、『銀行支店長、走る』(実業之日本
社)である。

月刊『ジェイ・ノベル』に、昨年2月から11月まで連載していた『人情支店長』
を、単行本化にあたって改題したもので、タイトル通り、江上氏が得意とする
銀行もの。

ユーモラスにテンポよく、しかもリアルに描いており、この分野は職人芸に達
している。

もともと、計算した笑いというより、にじみ出るような笑いを散りばめるのが
うまい人だ。

窓際寸前行員の貞務定男(55歳)が、同期で出世コースを歩む久木原善彦専務
の“引き”で、支店長に抜擢されるところから物語は始まる。

切れ者の銀行幹部とダメ行員は、同期で同じ大学出身。面接試験も同じ日に受
け、内定を得ており、その前日、歌舞伎町の「ぼったくりバー」に引っ掛かり、
貞務が残って土下座、誘った久木原は、いち早く逃げだしたというエピソード
は笑える。

「貞務は、ヤクザの目をしっかりと見すえ、誠実さを込めて、『必ず払いに参
ります。ですから今日は見逃してください』と頭を下げた。

それでは足りないと見るや、土下座した。『おい、一緒に土下座……』と久木
原を探そうとすると、いないではないか」

ヤクザとの対応を、貞務に任せて逃げだしていた久木原。

なんとかヤクザを“説得”した貞務が、店を出て、階段を下りると、久木原は、
笑顔で拍手をして出迎えた。

「俺を置き去りにしたのか」と、恨めしげに言いつつ「呆れた奴だな。しかし、
お前が、一枚上手だ」と言ってしまう人のいい貞務。

この二人の関係と人間性が、物語の伏線となる。

支店に赴任してみると、部下たちはどこか距離を置き、ふてぶてしく「女番長」
と呼ばれている柏木雪乃という女性行員がいて、どこか居心地が悪い。

それに、柳沢実前支店長は、引き継ぎもせずに退職、行方知れずという複雑さ。

その謎を、元総会屋の木下勇次、元マル暴刑事の藤堂三郎の力を借りながら解
明していく。

ありがちなようでいて、上質なエンタテイメントに仕上がっているのは、銀行
の裏も表も知っている江上氏の“技”で、抜擢した久木原との最後の攻防は、
江上氏が広報部の現役時代に関わった総会屋利益供与事件を彷彿とさせて興味
深い。

江上氏の前作は、まったく色合いの異なる『慟哭の家』(ポプラ社)だった。
妻とダウン症の子供を殺した男の物語。テーマは重く、正直、暗い。

妻子を殺した男、押川透(57)が、拘置所を訪れた国選弁護人にこう訴える。

「私は弁護士さんを必要としていません。とにかくすぐに死刑にして欲しいの
です」

弁護人が「裁判には弁護人が必要です」と、答えると、「それなら私の依頼を
実現してください。お願いします」と、頭を下げる。

24歳になって、初めてオナニーを覚えたダウン症の息子健太、人生の全てを健
太に賭けた妻の由香里。

そして、妻に相手にされなくなった押川は、家庭でも職場の信用金庫でも居場
所を失い、うつろな人生を送るようになる。

そのあげく、体調を崩した妻に請われ、2人を刺殺したのだった。

最終の第10章で、死刑は得られず、禁固10年に処せられた押川は、判決理由を
聞きながら、健太の誕生を喜び、それが健太の病気で一転、つらくなった過去
を振り返りつつ、「ダウン症児を持つ親の会」の『つくしの会』に入会すれば、
夫婦だけで悩むことはなかったと悔やむ。

いつもとは筆致の違うこの作品の謝辞の最後を、江上氏はこう結んでいる。

「本書が、少しでもダウン症などの障害について、社会の理解を深める一助に
なれば幸いです」

知的障害者を抱える家族、国の施設、研究者、NPO法人、親の会などを取材
のうえ執筆した江上氏には、ダウン症の理解を少しでも多くの国民に知っても
らいたいと、心に期すものがあった。

それを書き下ろしで著した、職人芸と社会への告発書。

執筆への意欲は、当分、枯れることがなさそうだ。

【あとがき】

この書評は、かつて、石原氏が日本振興銀行の内幕を暴露した際、頼まれ社長
とはいえ、木村剛氏の後を引き受けた江上氏を批判。その後、江上氏と機微を
触れ合う機会を作った石原氏が、江上氏を評価する書評を書くことになったの
は、進行する肝ガンの重さを自覚するようになったからではなかろうか。

冒頭の【お断り】のとおり、本誌は、次号が最終号となります。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 週刊メールジャーナル 2013年5月29日  第686号(水曜日発行)
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
    編集発行人:川崎 明 / 発行所:メールジャーナル社
        〒130-0026 東京都墨田区両国2-1-4 第2西村ビル201
ホームhttp://www.mail-journal.com/
メールadmin@mail-journal.com
転載・再配布等には事前にメールジャーナル社に許可をお取り下さい。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■