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【出たっきり邦人 欧州編】1174 イギリス

【出たっきり邦人 欧州編】1174 イギリス

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■□■□■   出たっきり邦人・欧州編・2013・4・2・1174    ■□■□■
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              ◇◆乙編◇◆
        
            〓イギリス・ケント発〓

            『万華鏡』 第102回 

               <演技>

今年の3月は非常に寒く、水仙がいつもより遅く咲いています。何でも50年
ぶりの寒さとのことで、会う人会う人、「寒いわね、いつになったら暖かくな
るのかしら」と話します。まだ寒い日が続いていますが、天候に気分を左右さ
れず、善いことや楽しいことに集中し、心を温めることで体を温めています。

さて、日英合作舞台『家康と按針』を観てきました。イギリスのロイヤル・シ
ェイクスピア・カンパニーと日本のホリプロの協働による作品で、歴史の勉強
はもちろん、お芝居って、こんなに楽しいものなのだ、と思い直すきっかけと
なりました。

音楽が伴うミュージカル、バレエやオペラばかり鑑賞してきましたが、セリフ
のみの劇はほとんど観ることがなく、非常に新鮮でした。しかし、歌や踊りが
ない分、かなり集中力が必要とも感じました。おまけに日本語と英語の両方が
使われ、脳内は超繁忙でした。観客のための翻訳字幕がテレビスクリーンで映
し出されていましたが、劇場技術も時代とともに進んでいますね。

この『家康と按針』は、日本とイギリスの通商400年を記念するプロジェクト
J400の皮切りとして、家康のグレゴリオ暦での470歳のお誕生日であった去る
1月31日に始まり、2月9日まで計11回の公演が上演されました。私はその
初日の公演のチケットを購入し、家康役を演じる有名な市村正親氏の演技を何
よりも楽しみにしていました。

もちろん市村氏は私の期待を裏切りませんでした。なんという重み、深み、そ
して奥行きを持った役者さんなのでしょう。彼の存在は見ているだけで引き込
まれます。家康の役だからではなく、彼の長年に渡る役者としての脂ぎった人
間味に惹かれました。

また、按針ことウィリアム・アダムズを演じたスティーヴン・ボックサー氏を
始め、イギリス人の役者さんたちも、シェイクスピアの劇はレパートリーとな
っている方たちなので、その大胆で豪快な演技や素晴らしい英語にうっとりし、
シェイクスピアの劇もいつかゆっくり観賞したいと思わせてくれました。

初日の公演なので、プロジェクトJ400の招待客も多くいました。事実、私と
一緒に地元メッドウェイから参加した仲間は私を除いて全員招待客でした。
メッドウェイ市長夫妻、メッドウェイ国際交流会日本グループの中核メンバー
たち、アダムズが洗礼を受けた教会の司祭、日本人高校生との交流を続ける
グラマースクールの校長夫妻。

開演前にみんなでバーで歓談しているところに、隣にいた校長先生が「あれ
はアラン・リックマンだよ!」と教えてくれ、バーテンに何か注文している
リックマン氏を眺めては感動していました。アラン・リックマン氏はイギリス
の有名な俳優さんであり、映画『ハリー・ポッター』の‘スネープ教授’を
演じた人です。私が有名人を見かけることは非常に稀だし、ミーハーでなく
ても、やはり感動しました。仲間と話している顔は、まさにハリー・ポッター
を見下げる顔つきで、さらに感動しました。

そんな格の高い俳優さんもこの日英合作を観に来たと思うと、たまらなく嬉し
く感じました。彼のような超プロはどのような感想を持ったのか、知ることは
ないですが、非常に興味があります。

演技 - 自分とは違う誰かになりすます。これが非常に楽しいと感じる人た
ちが俳優さんになっていくのだと思います。そしてその先はその自分ではない
誰かを上手に演じることができるかどうかが鍵となっていく。

イギリスでは小学校から「演じる」という教育が重視されます。ドラマ学校は
至るところにあるし、演じるのが好きという人が非常に多い。アマチュア層が
厚いから、素晴らしいプロがどんどん輩出されるのでしょうね。

西洋人の政治家たちは演劇の基本を学ぶようですが、それはハキハキと話す、
人を説得させる話し方を習得する、書かれた台本をさっと覚えてスラスラ話せ
るようになる、心になくてもきれい事が難なく言えるようになる、ひいては人
を騙すことも簡単にできるようになるためかもしれません。(笑)

私自身は自分ではない誰かになりすますことは難しいと感じています。最も、
小学生のときは、学芸会の演劇出演に選ばれたいとは思っていました。一回チ
ャンスがめぐって来て、『みつばちマーヤの冒険』の主役に選ばれたのですが、
ダンス部に属していたため、そちらの出演を選択することにしたのでした。

あの時の劇を演じていたら、私の人生も変わっていたでしょう。しかし、それ
はひとつの好奇心であって、心から楽しんだのはやはりダンスであったことを
後に悟りました。また、子供心にも、セリフよりは踊りの振りを覚えるほうが
簡単だと感じたのでした。

だから、演技ができる人は凄いと思うし、人のお芝居を観るのは昔から好きで
した。テレビドラマや映画も、そんな演じることが好きな人から成り立ってい
るのですものね。様々なキャラクターが私たちの感情に訴える。そして色々な
気づきを与えてくれる。また、それらドラマや劇や映画を創造した人々の意図
についても思索し、そこのメッセージを捕らえる。

『家康と按針』は、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの芸術監督が日本
をツアーしていたときに、ウィリアム・アダムズと家康の歴史的事実を知った
ことがきっかけとなって生まれた作品でした。それこそアダムズが大航海をし
て日本に漂着したように、日英合作と簡単に言っても、2009年の日本での初
演、それに今回のイギリスでの公演に漕ぎつけるまでの道のりは大変なものだ
ったようです。

一つの作品を実際に舞台に表現させるまで、本当にたくさんの舞台裏で活躍す
る人々が必要ですね。シェイクスピアが手がけただろうという展開でこの作品
を監督さんは意図しましたが、戦国時代当時の政治的闘争、スペイン・ポルト
ガルとイギリス・オランダの対立、家康とアダムズの温かい友情、所々の喜劇
的要素、そして豊臣秀頼の8歳の息子国松やキリシタン弾圧をめぐっての悲劇
的要素も織り込まれ、本当に様々なシェイクスピアが混ざった作品となってい
ました。

特にカトリックとプロテスタントの対立について、私たちは後世人だからこそ
理解できますが、戦国・江戸時代の人々にとって、非常に難解だったのではな
いかと感じました。様々な感情と思考が交差しましたが、本当に素晴らしいお
芝居でした。

俳優さんたちがテレビや映画より舞台を重要視する気持ちもよく分かります。
テレビや映画とは違い、舞台は一回切りの演技。やり直しは効かない。何百回
という稽古を通して、その一回切りの本番演技を満足に演じきる。

家康役の市村氏も、アダムズ役のボクサー氏も、そして二役・三役・四役をこ
なしていたほかの役者さんたちも、一回しか観ていない私に素晴らしい感動を
与えてくれました。それこそプロですね。

シェイクスピアは人生はひとつの舞台だと語りました。その上で演じる自分。
誰が台本を書いているのだろうか。そして誰が監督しているのだろうか。実は
脚本も監督も自分が担当しているのかもしれません。いや、そう思うことで、
もっと自分の人生という舞台を華やかにしていけると思うのです。

喜怒哀楽に満ちた脚本を書き、役者の自分が輝くように監督として様々な指示
を出し、「自分」を演じきる。それを鑑賞するのもまた「自分」であり、適切
な拍手や意見をフィードバックして、さらに役者の自分に磨きをかける。

誰もが「自分」という役を演じているのではないでしょうか。何でもありの人
生、それでいいのです。生きているというだけで素晴らしい。人生という大き
な舞台での演技を楽しみ、たくさんの思い出を作っては家族や仲間と語り合っ
ていきましょう。

プリマ

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◇◆次回は4月9日(火)フランス・パリ郊外から配信予定です◇◆
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